ごあいさつgreeting

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 法医学は亡くなった方と向き合う医学です。生きている人の病気や怪我を治すことを目指す医学部のなかでは少し変わった存在かもしれません。過去に起こってしまった事実をひとつひとつ拾い上げる、という意味ではとても後ろ向きな仕事とも言えます。しかし、“生”
の先には必ず“死”があり、私たちは家族や友人の死を経験しながら生きていきます。苦しんでいる人に手を差し伸べる臨床医がいるように、亡くなった人に向き合う法医がいます。亡くなってしまった人が、どう生きていたのか、どう最期を迎えたのか、ひとりひとりの体から聞き取るのが法医学の仕事です。
 法医学の対象となる方の多くは、予期せぬ状況で突然亡くなられた人達です。事故であれ病気であれ、突然家族や友人を亡くすことは時として残された人の人生に大きな傷痕を残します。何が起こったのか分からないままでは、のちのち不要な疑念や後悔を招くこともあります。そんな時、医学的な手がかりを探し出し、死が起こった状況を明らかにできれば、これから生きていく人達が不当に過去に囚われることが防げます。また、未来に起こりうる同じ事故や突然死を防ぐ手立てを探れます。私たちひとりひとりの“死”は、必ず未来の
“生”に繋がっていきます。
 当教室では、犯罪や事故に巻き込まれた方、看取られなかった方の“死”の状況を明らかにするために解剖と検査を行っています。死因そのものを究明することはもちろん、突然死をきたす病気の病態解明、身元特定のためのDNA解析など、死後診断をより正確に行うための研究に積極的に取り組んでいます。“死”は“生”と密接につながった存在でありながら、“死”をめぐる医学研究はこれまで十分に行われてきませんでした。そのため、法医学にはまだまだ手つかずの研究課題が多く、柔軟なアイデアや先端の解析手法を用いれば解明の糸口がつかめる可能性に溢れています。私たちと共に、“死”を通じて生きた社会に貢献しませんか?熱意ある学生、医師、研究者の参加を待っています。

東海大学医学部基盤診療学系法医学
教授 垣本 由布